郷愁桜

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東川にて

北海道の桜はエゾヤマザクラという種が殆どで、本州でよく見られるソメイヨシノなどと比べると花びらのピンクが濃く、花と同時に葉も出てくる。桜が持つ、白くて華やかで、どこか妖艶なイメージとはかけ離れている。そして若い木が多く、立派な古木を見ることは殆どない。木の寿命のこともあるだろうが、何より桜を植える人間が住んでいなかったということが大きい。北海道のあちこちに開拓者が入ってからせいぜい100年程度なのだから。

ウチの近くの山の中に、立派な桜の古木があるよと聞かされた。
桜の季節になって探してみたら、見つけることができた。
確かに大きな桜の木だった。
しかし住宅街の桜が満開だというのに、まだつぼみも膨らんでいなかった。
本当に咲くのだろうかと不安に思った。

あたりの桜がすっかり散った今日、午前中までの曇り空が抜け、青空が広がった。
カメラを持ってあの桜に会いに行った。
砂利道の向こうに、ピンクの花びらを重そうにつけた木が見えてきた。
満開の桜が、風に揺れて気持ち良さそうに見えた。

聞く所によると、この桜は樹齢80年ほどになるらしい。
福島県の会津地方から入植した一家がここで暮らしていたという。
今では木の横に農作業小屋が残っているだけだ。
この山中で木を切り、石を取り、畑に変え、農作物を作って暮らしていた。
一家の主はふるさとの桜を想い、この桜を植えたのか。
年に一度訪れる満開の日、ピンク色の花びらと今日のような青空とのコントラストを見て、その一家の心によぎるのは何だったのだろう。
深い雪が融け、閉ざされた冬が終わった安堵感なのか、それともふるさとへの郷愁の念だったのだろうか。
今では殆ど人の来ないこの場所で、今年も満開の日を迎えた。
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